『那珂川・天然遡上鮎』について

天然鮎の遡上数、釣り人の数から日本一の鮎釣り場といわれる那珂川。

かつて、鮎河川御三家といえば、那珂川・鬼怒川・狩野川を指し、三川の鮎の遡上具合が、その年の釣り業界の景気をも左右したほどでした。

しかし、御三家の中で往年の人気を維持しているのは、那珂川だけであります。

他の河川には、ダムや堰(せき)ができてしまい、それらが結果的に年魚ともよばれ、回遊魚でもある鮎の生態に大きな影響を及ぼしているからです。

一般的には、天然鮎というと、四国の四万十川・九州の球磨川・中部の長良川 等が有名ですが、数年前におこなった(財)日本釣振興会が①天然遡上の鮎が多い ②釣り人の受け入れ態勢が良い ③姿・風味の良い鮎が育つということを基準にして選定した「天然鮎ののぼる100名川」によると、那珂川がダントツの一位に選ばれています。

このことは、関係者の中でも、がまかつトーナメントやダイワマスターズ等で全国の河川で戦う一部のトーナメンターや関係者にしか知らされてませんでしたが、霞が浦導水事業の反対運動により、全国の漁協関係者や、漁業者などに広く知られるようになりました。

ちなみに、その年の遡上漁獲量を申しますと、

1位・那珂川水系   421,686 kg

2位・相模川水系   277,030 kg

3位・久慈川水系   268,897 kg

4位・球磨川水系   201,487 kg

5位・吉野川水系   172,730 kg

6位・四万十川水系  168,477 kg

長良川は、河口堰が出来てから、漁獲量が10分の1に減少したため、10位以内に入っていません。そして、北関東東部の2河川が1位と3位に入っているのは、大変興味深いことだと思います。

かつて、日本の川には沢山の鮎がいました。しかし、蔓延する冷水病・次々と完成するダムや堰など、鮎を取り巻く状況はかなり厳しいものとなっています。その為、多くの河川では放流に頼らざるを得なかったのが現状であると思います。

だが、本当にそれでいいのでしょうか?

今回は、天然鮎を増やすために、どうしたら良いかということについて述べたいと思います。

最近は、鮎種苗を放流するだけでは漁場作りがうまく行かなくなったこともあり、天然鮎を増やそうという河川が増えてきました。これまで、あまりにも放流に頼りすぎていたことを思うと、やっと本来の形に近づいてきたのかも知れません。

何よりも天然鮎が沢山遡上できる環境を取り戻すことは、私たちの故郷を考える上でも不可欠なことだと思います。

天然鮎を増やすためには、やらなければならない事が沢山あるのですが、まず球磨川の例を挙げますと、何をやったかと言うと、産卵する為に瀬に付いた鮎を獲り、シュロの木のネット状の物に卵をふきつけ、それに受精させて上流に持っていきます。

なぜ上流なのかというと、下流よりも上流のほうが水がきれいだからです。そこで、ふ化する直前まで卵にかかった砂や葉などを払い落しながら面倒をみます。そして、それから河口まで水槽付きトラックで運びふ化させます。

鮎の卵は、だいたい積算温度が200度~210度でふ化します。例えば水温15度なら14日でふ化します。そこから、河口の汽水域までたどり着き、ワムシというプランクトンを食べないと死んでしまいます。(ふ化したばかりは泳ぐというより、そこまで川の流れにのり、流されて行くという感じだと思います。ですから、澱(よど)みに入ってしまったりした種苗は、餓死または他の魚の餌食になります)

そうして、海や汽水域で冬を越し春に川を遡上してきます。

球磨川には大きな堰が2つありますが、遡上時期は組合員が網などで鮎を上流部に汲み上げています。これを3年続けて行ったら、瀕死の球磨川が蘇りました。

今までは、巨鮎の釣れる川として全国的に有名になったのです。

このように人工的に種苗を生産し放流するのではなく、自然のサイクルの中の一部を手助けしてやるようなやり方のほうが、効果的だということが分かります。

コストパフォーマンスからも、また、地域住民たちの協力で川を再生させるのですから、自分たちが作った川、再生させた川ということで川に対する愛着も違うと思います。

では、那珂川ではどういう方法が良いかというと、まずは、産卵場の造成・整備が一番良い方法なのではないかと思います。皆さんも、テレビなどで鮎の産卵などを見たことがあると思いますが、メスの周りに沢山のオスがいます。しかし、実際、卵に受精させているのは、1~2尾のオスでその他は、卵を食べに来ているのです。産卵場で捕まえた鮎の腹の中には、100個以上の卵を食べている例もあるのです。あまり知られていませんが、鮎の卵が鮎に食べられる量というのは、かなり多いのです。

心配なことに、こういった「食卵行動」の被害は、近年大きくなっているようです。なぜならば、本来は小石の間に深く埋もれているはずの卵が、川底の表面近くに付着するようになり、食べられ易い状態になっているためです。この原因は、川の環境悪化にあります。

鮎の産卵場は、多くの場合いわゆる、瀬という浮石状態の川床に形成されます。浮石川床というのは、小石のすき間がたくさんある状態のことです。この状態だと、鮎が卵を産むとかなり下のほうまで卵が入って行って石に付着します。川がまだ健康であった30年くらい前、その深さは、大体15㎝~20㎝くらいでありました。それくらい埋まっていると卵が石で守られて、食べられにくくなるし、ちょっと水が出たくらいでは流されません。

ところが最近、山の崩壊とか河川工事とかいろんな理由でこの浮石状態の川床がなくなりつつあります。

石の隙間に砂や泥が入って、目詰まりを起こしているのです。ダムを作ってから30年以上経過した川では、上流から砂利が流れてこない為に、小石底そのものが失われていることもあります。そういう川で卵が埋没している深さを測るとわずか、3㎝~5㎝しかないことが多いのです。こういった理由から、産卵に好適な浮石底を復活させるために造成が必要になってくるのです。

造成の大まかな手順ですが、まずは場所の選定です。産卵時期前、抱卵したメスが集まっているトロや渕を確認したうえで、その近くで造成を行うようにします。

卵を産む場所に関しては、鮎なりの選択基準が存在しますので、人間の都合で造成しても鮎に見向きもされません。

次は時期ですが、産卵直前が望ましいのですが、これは年によって異なるもので、水温が20度以下になる時期を目安にします。造成の方法は、要は産卵の邪魔になる砂と泥を洗い流せば良いのです。ブルトーザーやユンボなどの機械を使って川床を掘り起こせば、砂と泥は簡単に取り去ることは出来ます。直径20㎝以上の石も産卵の邪魔になるので、取り除いたほうがよいです。

見落としやすいのは、川床を重機で掘り起こした時にできる起状の処置です。

鮎は川床に残る「でこぼこ」を嫌うので、最後の仕上げは、鍬やグランド整備用のトンボを使って出来るだけフラットにならします。

このような作業で実際に高知県の奈半利川(なはりがわ)で、造成の成功によって、鮎の仔魚の流下数が飛躍的に増えました。大きな効果があるのは確かです。

鳥取県の日野川では、10月の第1日曜日を産卵場造成の日という記念日に決めました。

この造成には、今でも100人近い造成人が集まります。漁協はもちろんのこと、釣人・行政・土木会社など、顔ぶれは多彩で、中には県外から駆けつけてくれたご夫婦もいるそうです。

このイベントには、鮎に卵を産んでもらう以上の意味があると思います。この造成作業を通じて、川が抱えている問題、鮎など魚類の苦しみなど、釣りをしているだけでは、あるいは、川を眺めているだけでは気づかない様々な問題を実感できるからです。こういったことは、鮎を取り巻く環境を良くする事につながっていくと思うし、なにより自分が汗を流したことで、鮎が増えたとなれば、川や鮎に対する愛着を、より強く感じるのではないでしょうか?

最初に述べましたように、那珂川は日本一の川です。この貴重な資源をこれからも守り続けて行く為、漁協・行政・地域住民が一緒になって、このちょっとした川への手助けをしてやらなければならないと思います。

5年後、10年後この那珂川をどのようにして行くのかということを真剣に考えていかなければならないのです。

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