鰻のうんちく

『”旅”をする鰻。謎多き生態が明らかに』

 鰻は古代から、日本人の食の対象となってきた魚です。しかし、どこで生まれるのか知る由もなく、生態に関してわからないことが多い謎多き魚でした。

日本では昔から「山芋転じて鰻になる」などかなりいい加減なことが言われ、また、かのアリストテレスでさえ、「鰻は泥の中から自然発生する」と言ったほどです。

 動物の”旅”は生物界に多く見られる生命現象ですが、その旅のルートや目的地さえはっきりしないケースが多いのも事実。外洋の産卵場と河川の成育場の間を数千キロも回遊する鰻もその1つです。

こうして長い間謎とされてきた鰻の産卵場が、2005年6月、東京大学海洋研究所の塚本勝巳教授によりピンポイントで発見されました。その場所は北緯15度、東経142.5度の地点で、わかりやすく言うと、グァム島西側のスルガ海山というところです。「海山」とは文字通り海の中にある山のことで、富士山のような山があると想像してください。そこが産卵場となり、日本から約2000キロ離れています。

産卵時期については、夏の新月に産卵することがこれまでの研究で明らかとなりました。鰻は5~7月の夏の新月に産卵(月周期・同期産卵)し、北赤道海流を経てフィリピン辺りから北上する黒潮(日本海流)にのり、台湾を通って約半年かけて日本に到達します。その後、各河川を遡上。性別や個体差はありますがおよそ10~15年ほど淡水で成育し、体が成熟すると秋の台風などで増水したときに川を下り、半年ほどかけて小笠原諸島、硫黄島などの東日本火山帯に沿って南下。その先にある海底山脈沿いに約2000キロ泳ぎ、産卵場であるスルガ海山にたどり着きます。

『体の色が変化する天然鰻の不思議』

天然鰻は背がオリーブグリーン、腹は黄色味を帯びた白です。成熟して川を下るとき、シルバーブラックとも呼べる銀化した個体が親魚となります。

2000キロにもおよぶ旅の途中、天然鰻は深い海のどの辺りを泳いでいるのでしょうか。表層は敵が多く危険であり、低層は水温が1~1.5度と低くなるため長期にわたる移動には向きません。中層となる水深200メートル地点の海中の明るさは0.1ルクスほどしかなく、この明るさは人間が慣れてくるとようやく見える程度のもの。鰻は0.01ルクスまで見えるとされ、また、銀化した鰻は目が大きくなり、浮き袋を調整する筋肉がより発達するという理由から、水深200メートルほどの中層を泳いでいると考えられています。

『国産鰻が貴重なわけ』

2007年の1年間に国内で消費された鰻の総量は約10万トン。そのうち国産物が約2万トン、輸入物が約8万トンとなっています。この数字を見ても国産鰻が貴重であることがわかりますが、国産鰻の原点であるシラスウナギの現状に着目してみると、事態はもっと深刻です。

 近年、ヨーロッパ種のシラスウナギは全盛期のわずか1%ほどしか採捕できなくなりました。まさに絶滅危惧種であり、日本古来の鰻であるアンギラジャポニカ種も全盛期の10%程度にまで落ち込んでいます。

以上のような状況の中、今後、鰻の回遊生態や産卵生態がよりくわしく解明されれば、鰻の完全養殖が可能となり、ひいては水産資源の保護にも役立つと期待されています。

ちなみに、鮭は1匹で約3000粒の卵を持っていますが、鰻は1匹で100~300万粒の卵を持つなどその繁殖能力は十分。過度の漁獲を制限すれば、シラスウナギの個体数は短期間で元に戻るはず。今後しばらくの間は乱獲を制限し、鰻が増えるのを見守っていかなければなりません。

『鰻は栄養がてんこ盛り』

何千キロも海を泳いで旅する鰻はエネルギーの塊。栄養価が高いことはだれしもが知るところです。肝臓や視力回復に効くビタミンA、疲労回復と食欲増進を促すビタミンB1、若返りの効果があるとされるビタミンE、脳細胞を活性化するDHA、肌をすべすべにするコラーゲンなど、その効能は計り知れません。ちなみに、鰻にかける山椒には、鰻の臭み消すほか、胃酸に働きかけ消化を助ける効果があります。

鰻料理はスタミナ食のイメージがありますが、鰻丼1杯のエネルギー量では約500キロカロリーと意外にも少なめ。ダイエット中の方でも安心して食べられる”ジャパニーズ・パワーフード”の代表格です。

『なぜ、鰻に刺身はないのか』

鰻の血液中にはイクシオトキシンというタンパク質毒が存在しています。この毒は溶血性であるために、目に入ると粘膜を刺激して結膜炎を起こしたり、傷口に入れば炎症を起こします。口から入った場合は吐き気や中毒症状を引き起こします。ちなみに、体重15キロの犬に鰻の血清を0.5グラム注入すると、けいれんが始まり、やがては呼吸困難となります。

ただし、このイクシオトキシンは熱に弱く、加熱により失活するので、白焼きや蒲焼きは安心してお召し上がりください。

『関東風と関西風の違い』

余談ですが、平賀源内もしくは山東京伝が鰻屋より依頼を受けて、「本日土用丑の日、鰻の日」と店先に大書きしたところ、それが評判となったのが土用の丑の日の始まりとされています。

さて、蒲焼きの調理法には関東風と関西風があるのはご存じの通りです。関東風は鰻を背開きにしてから焼き、それを蒸してからタレを付けて再び焼きます。一方、関西風は腹開きにして焼き、蒸さないまま蒲焼きにします。

背開きと腹開きの違いは戦国時代に端を発します。関東は武士の数が多く、切腹を連想させる腹開きを避け、背開きになったという説があります。

Leave a Reply